チヤホヤされてますが童貞です
「………これから一緒に住むのに他人行儀なのは良くないですよね。役作りを真剣にするなら下の名前で呼び捨てとか…」
「同期とは言え、俺の方が一つ年下なので…佐嘉峰さんを呼び捨てにするのはハードルが…」
「気にしないですよ。」
「………えっと…じゃぁ……」

女の人を呼び捨てにすることも相手に慣れることの一環。そう考え、変に震えそうな声帯に力を入れる。

「凛…」
「…はっ…はい……」

照れ臭い空気が流れて、ぽりぽりと人差し指の腹で頬を掻いた。

「俺ばっかり呼び捨てで呼ぶのは不公平なので…凛も……」
「………あ…えっと…」
「? 覚えてないですか? 俺の下の名前」
「いえ!覚えてます!!ただ…」

「恥ずかしい………」

「っ…」

天然でやっているのなら、もの凄くズルい人だと思った。
林檎みたいに顔を赤らめて、視線は合わずに彷徨う。

「………ふぅ…」

軽く一息ついて、凛は真っ直ぐに綾斗と向き合う。

「あや…と…くん…」
「呼び捨てなんじゃ…」
「うぅ……あと少し時間ください…」

お互い緊張しながら、歩み寄ろうとその夜は必死に会話を繰り返した。

敬語を使わない、と約束するも、亀の歩みのように自然に会話ができるまで3時間を要した。
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