チヤホヤされてますが童貞です
「……え…? きっ……」

完全に頭からすっぽ抜けていた重大なシーン。

「……ぅ…わ…」

(忘れてたーーーー!!!)

ボンっと音がしたように急上昇する熱に脅かされた。

「あ…はは…。頑張ります…」

嘆いたって駄々を捏ねたって今更どうしようもない揺るがない仕事。
『女慣れしてないので無理です!』という発言をしようものなら、『じゃあ何故、俳優になったの? この仕事を受けたの?』と訊かれるのはもちろん。
なによりも自分に向けられた期待や激励を蔑ろにできない。がっかりさせたくない。

男なら、男らしく!

などと腹を括りはした。


けども…。時は戻り現在。

(むりむり…。凛と…あぁあぁぁ)

『初めて』を特別視しすぎているのは重々承知している。
俳優にスカウトされた時は事務所の強引さに負けてしまった。
演技を褒められることでこの業界のやり甲斐、楽しさを知ったが、気づけば女の人と絡むことも多く…。

(ていうか…なんで俺、『抱かれたい男』とかに選ばれてんの…。童貞ですけど!?)
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