チヤホヤされてますが童貞です
凛の肩に掛けてあるタオルを手に取り、彼女の長い髪の水滴を拭う。

「わっ…自分でする…」
「凛に慣れるための軽い準備運動だから……。黙ってされるがままになってて…。」

優しく触れるようなタオルドライをされ続けた。言われた通りに凛は『されるがまま』の状態になって終わるのを待ちつつ、チラリとタオルの隙間から見えた綾斗の面立ちを直視した。

「……ふっ…」

少しでも心拍数を下げたくて深呼吸を何度も繰り返している綾斗に耐えきれず、クスクスと凛は笑い出した。

「……何笑ってんの…?」
「だって…っ…世間のイメージと全然違うから…」
「……抱かれたい、とか…キスしたい、とか言われてるけど…実際こんなヘタレだってバレたら幻滅だよね」

ハハっと、わざとらしく綾斗が笑う。

環境のせいにして逃げ続けてきた。
周りよりも遅れていることに対する劣等感に気づかぬふりを決め込んで、いつまでも勇気の出ない自分を何かと理由を付けて肯定する。
そんな今までの生き方。

「…キスひとつ出来ない自分が変で笑える」

今度はヘラっとした薄っぺらい笑みを浮かべた。タオルを頭の上から取ると、ローテーブルの上にそれを置く。
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