チヤホヤされてますが童貞です
好きすぎて苦しいですが…

女優の心根

凛は最近の日課に悩まされている。

「凛」

綾斗に名前を呼ばれると、無意識のうちに背筋が伸び…。

「……おやすみ」

ちゅっとキスを一つ受けて、綾斗が顔を真っ赤にしながら自室へ進むのを見送る。

(ぅわ…)

バクバクと心臓は強い音を刻み、暫く意識を手放した状態で凛は動けなくなる。

それがここ最近の日課であった。

ちなみにあの日以来、大人なキスは一度もしていない。

唇を一度離すと無意識に軽く口を開けて誘いそうになる自分に気づいては平然を装うのを繰り返す。

(……私…綾斗のこと好きすぎ…)

初めて一緒に食べたディナーで、がっつり胃袋を掴まれた凛。オムライスを頬張る凛に向けた嬉しそうな綾斗の表情が未だに忘れられず…。

とっくの昔に恋心は自覚している。

そんな彼からのキスに毎夜ドキドキして寝不足になるのも習慣の一つだが、その眠気さえも心地良くて。

恋は人間を狂わせる怖いものだと実感したのがつい最近のこと。

「………あぁ…もう……好き…」

誰もいない部屋で1人呟いた。



そして迎えた朝。
「凛、おはよ」
「おはよう」

ぎこちない挨拶を交わし、洗面所で並んで歯磨きをする。

(……寝癖かわいぃ…)

鏡に映る綾斗の眠たそうな表情に加えて、少しピョンっと跳ねている前髪さえも愛おしい。
咥えている歯ブラシでさえも光り輝いて見えるものだから、恋のフィルターは恐ろしい効果をもつと1人頷いた。

うがいを済ませると、今度は綾斗の作った朝食の時間が訪れる。
本日のメニューは目玉焼きが乗ったトースト、昨夜の残り物の煮物とサラダ、そして凛が淹れたコーヒーだ。

(お嫁にしたいランキングもNo.1とっちゃいそう…)

そんなランキングの男性部門は存在しないが、凛の中での不動の一位は綾斗である。

「ん〜っ」

一晩置いた煮物も、目玉焼きトーストも、サラダも全て美味だ。舌鼓を打ちながらご満悦そうに食べてしまうのは演技でもなく素の凛で。

それを見て綾斗は言う。

「凛って本当に美味しそうに食べるから作りがいあるよ」
「っ……」

恥ずかしくなった凛はムグッとよく咀嚼もせずに呑み込み、パンが喉を重たく通っていく。
慌ててコーヒーを飲むと、ストンと無事に胃袋へ落ち、ホッと息をつくと綾斗は『つまらないように気をつけて』と優しく笑った。

「……綾斗はズルい。」
「何が?」

平気そう、と先日言われたが自分なんて一切平気ではない。平気だよ、と相手にアピールする演技ばかりが上手くなっていく今日この頃。

「………今日オフ?」
「うん。休み」
「凛は?」
「私もオフ」

無理やり変えた話題。

一緒にゆっくりできることを知ると、とても嬉しかった。
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