チヤホヤされてますが童貞です
「あのCMはフリだよ…? 実際キスしてない…」
「…うん」
「あとね…? 相手役の人、いつも綾斗だと思って演技してる…。」
「っ……な…にそれ…」
「だって安心するし…」
「………凛って本当にずるいよね…。」

今になって体の内から込み上げてくる熱に気づいたのか、凛は伏し目がちに話す。
それが堪らなく可愛くて、今すぐにでも触れたくなって…。

「……キス…してもいい…?」

それは精一杯の勇気と、振り絞った欲だった。

目を大きくさせて視線を合わせるように顔を上げた凛は、もう一度俯いて、コクリと更に深くゆっくりと顔を下げる。

「……立って…」

普段、もっと甘酸っぱくて胸焼けしそうなほどに恥ずかしい台詞を言ってきているのに、今は何も言えずにただ凛の手を引いた。

「………」

無言のまま見つめ合い、綺麗な色をした唇に自分の唇を重ね合わせる。

「……俺にもついたかな? この口紅…」
「………少し赤くなってる。」
「…………もっと…してもいい…?」
「うん…」

角度を変えて何度も何度も口付けをする。
だんだんと過度な緊張は和らぎ、薄らと瞳を開けると必死になって甘いキスに応える凛の姿に愛しさが増した。

「……んっ…」

耐えきれなくなって溢れる声も、触れると温かな頬も、さらさらな髪も。
全てに欲情している自分を抑制しようと試みたが、歯止めが効かず。

気づけば上唇を噛んでいた。

ピリッとした刺激に驚き、口を開く凛の口内に舌を侵入させる。

「んぅ…っ…あや…と…」

くちゅくちゅと響く水温。
見様見真似で舌を動かした。

「ごめん…。凛、無理やりされるの嫌なのに。」

凛のトラウマの話を思い出して綾斗は一度離れる。

「……綾斗なら良い…」
「じゃあ…舌…出して」

言われるがまま差し出す舌に柔らかく吸い付く。
砕けてしまいそうな腰は支えられていて、なんとか立っている凛。

「ごめん…。初めてだから…力加減とか……わかんない…」

『本当に初めて?』という疑問を抱くくらいにキスは気持ちよかった。

「私も…こんなキス…初めてだからわからないよ…」
「………じゃあ…練習……しよ?」

この練習の果てに待ち構えるのは、他の人とのキスなのだろうか。

願わくば、ずっと…。

付き合ってもない相手に、そんな感情をもち、再びゆっくりと眼を瞑った。
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