チヤホヤされてますが童貞です
「他の人たちと違って同居してる分、俺たち有利だったよね。全部1位だったし。」
「そのせいで付き合ってるんじゃないかって司会の人に言われて……っ…」

凛は自分で口走っておいて自分で照れてしまう。隣に座る綾斗の横顔を見つめると、微妙な表情を彼は見せていた。

「……付き合ってないのに、いろいろごめん。」

と、一言放つ綾斗に何も返せず、凛は口を固く結ぶ。なんと伝えるのが適切か脳裏で沢山思考するが、その努力も虚しく答えは出てこなかった。

『じゃあ付き合う?』『彼氏になって』

そんな言葉が浮かんでは消えていく。

正しくない。この場では相応しくないと思っている。


「凛は俺の特別な人だから…『付き合ってる?』って言われてビックリはしたけど、嫌じゃなかったよ。」


綾斗は顔を赤くしながらそう言う。
しかし凛は…。


「……綾斗は『初めて』に執着してて…その『初めて』がたまたま私だったから…私に特別感を抱いてるだけなのかもよ…?」

「………そう…なのかな…?」

凛が強引に押し切れば、必ず綾斗を手に入れられる。
履き違えた執着心・間違えた独占欲の満たし方、それらを巧みに操れば意図も簡単に付き合うことが出来るだろう。

(でも……それじゃ意味ないよね…)

求めているのは身体や彼女なんて立場じゃない。

「………欲しいのは…綾斗の気持ちだから…」
「……俺の気持ち…?」
「うん」

それ以上、深く言わないでおこう。

そろそろドラマの撮影もクランクアップを迎える。付き合ってない男女が一つ屋根の下で共に生活する終わりも近づいている。

これから長い役者人生。

綾斗以外の人とラブシーンを撮るのはほぼ確定していること。それは綾斗も。凛以外の人と抱き合ってキスして…避けられない状況に陥るのは間違いなくて。

変な独占欲で保てる関係の破滅は簡単に訪れる。身代わりさえ見つければ、心から好きな人を見つければ。

2人でこんな風に笑って、唇を重ねることはなくなるだろう。

「………綾斗は…私とどうなりたい…?」

その質問に対し、無言でいる綾斗を置き去りにして自室へと凛は姿を消した。
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