チヤホヤされてますが童貞です

質問の答え

「ただいま…!」
「おかえり」

数えられるほどに残りが少ない挨拶を交わすと、心を寒気が襲った。

「遅くなっちゃった…。現場が遠いのもあるけど……急に事務所に呼び出されちゃって」
「お疲れ様」

凛の顔を見るだけで、声を聞くだけで、寂しさや悲しさなんてものは簡単に風化した。

(凛に…言わなきゃ…)

そう思って話しかけようとした時、

「お腹すいた〜。綾斗の料理食べたい」

と言ってにっこりと彼女が笑うので、

「食べよ」

自分の話は後回しにした。


「うわぁ美味しい…!この天ぷら何?」
「これがウドで……こっちが筍、あと服部さんがくれたヨモギだよ」
「ヨモギ? ヨモギってあの団子とかお餅の? 天ぷらは初めて食べた」
「クセがなくて美味しいよね」

麺汁につけて食べた。
余分な油を落として口に運ぶと、じゅわっとヨモギの旨味が口内に広がる。

「筍も美味しい〜」

向かい合って一緒にご飯を食べるのも、

「綾斗の料理好き」

頬に食べ物を詰めて味わう凛を見るのも、

「凛にも作れるよ」

残りわずかである。

胸の奥がギュッと締まった。それは心臓を掌で握られているみたいな、そんな感覚で。
気まずい雰囲気なのは変わらない。今も無理して会話をしているようなものだ。

凛は『問いかけの答え』を待っている。

綾斗は答えるタイミングばかりを伺っている。


『………綾斗は…私とどうなりたい…?』


言い方を間違えては駄目だ。スマートに、伝えたいことをまとめて…。


思考を常に巡らせながら食事を終えると、食器をシンクへと運んだ。
< 48 / 67 >

この作品をシェア

pagetop