チヤホヤされてますが童貞です
(服部さんのバーカ!)

日頃お世話になっている人に向けて思う言葉ではない。重々承知の上で思っているのだが…。

「………」

駅から徒歩で帰る道中、コンビニが視界の隅に入った。無意識にピタリと足を止め、中に入っていく。

(お茶買おう…。喉渇いた…。)

一番奥の飲料売り場まで進もうとした時だった。一番下の台、入り口付近に販売されているカラフルなデザインの小箱に目線がいく。

(うっ…わぁ……)

意識するな、という方が難しい。

『まだ自分たちには早い。』なんて思う気持ちと、『でもいざという時のためにあった方が良いんじゃないか』という気持ちの狭間で揺れ動く。

(待って。しっかり変装してるけど…)

『コンビニ店員に素性がバレたら終わりじゃないか?』という不安までもが襲ってきた。
チラリとコンビニの店員を見ると、白髪のおじいちゃんで。

(………俺のこと知らなそう…)

それからまた下の方へと目をやった。

「っ……」

(いや!!だから、何買おうとしてんの!?)

童貞が初めて買うかどうか悩んでいる今の状況が服部に知られたら間違いなく高笑いされることであろう。

「……ぅ…」

小さく声を漏らし、高速でアレを手に取った。そして不必要なお菓子やコンビニスイーツまで一緒に抱えてレジへ並んだ。





「今日は私特製のカレー♪ 召し上がれ!」

家に帰ると美味しそうな匂いが部屋に立ち込めていた。
具材は大きめ。綾斗と凛の好みの中間をとって中辛と甘口のルーを半々ずつ入れて煮込んだ絶品カレーは見た目からして食欲を誘う。

「美味そう…」
「食べよ食べよ〜!」

『いただきます』と声を合わせて1日のご褒美のディナーを楽しんだ。

「綾斗も明日、お仕事午後からでしょ?」
「うん。午前は一緒にゆっくりできるね。」
「今夜も……ゆっくり…できるね?」
「……へっ…?」

間抜けな声が出てしまう。顔もカァーっと紅潮し、綾斗はカレーを食べる手を止めた。

「……えっと…何かしたいの…? 夜更かし?」
「うん。その……寝支度済ませたら綾斗の部屋に行くね。」

優しく笑う表情と共に、脳裏によぎるはカラフルな小箱。

(あっ…アレを使う時がきた!?!?)

この調子だと明日の晩ご飯は赤飯かもしれない。

舞い上がる気持ちと裏腹に不安も押し寄せる、なんとも複雑な心境が綾斗の鼓動を速らせた。
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