生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―奏side—
「それじゃあ、また明日。テスト頑張りましょうね。」

「うん。夜遅くまでごめんね。」



過ぎていく時間だけは長くて……でも何もできなかった。花月の部屋を出ると何も話さず大広間まで来た聖と僕。



聖も花月のこと……好きなんだよね。


「なんか…ごめんな。」
「ごめんって何のこと?」


「花月と……話したそうだったから。」

「別にどうってことないよ。花月と話せてもこの虚しさは変わらないから。聖はいいよね……花月といつも一緒に居られて。」

「俺も不安……。俺の好きは花月には届いていない。花月が俺に向けてくれる好きは友達としての好き。俺が告白……したことも…たぶん忘れてる。」



そうなんだよね……。花月の好きはたぶん博愛精神。Loveじゃなくてlike。でも僕たちが望んでいるのはloveの好き。告白してもダメなんじゃどうしたら……




ん……?聖、今なんて言った……?


「聖、今告白って聞こえた気がしたんだけど……。」

「襲ったことを謝りに行ったとき抑えが効かなくて好きだって伝えた。でも好きだとも嫌いだとも言われなかった。それって意識すらされていないってことだよな……。」


いや……驚くところはそれだけじゃない。そこまでの行動力、そもそも聖にあったの…?いつも何も言わず、柚の時だってなにも……



本当になにも……?



「今までの聖は…そんなのしてなかった。でも…本当はずっと心の中に好きって気持ちがあったの…?柚の時も本当は好きって気持ちがあったの…?何も言わずに…劉磨に譲ったの…?」

「分からない。でも……花月だけは…何かが違う。ずっと一緒にいたい……。」



「それって僕への宣戦布告……?」
「……そうかもな。」

「そう……なんだ。いくら聖が相手でも僕は譲らないから。花月は僕のものにする。僕は負けない。」



こんな強がりを言っている時点で僕は既に負けている。劉磨も泰揮も好きだって態度が分かりやすかった。悠夜でさえも表情が柔らかくなって花月への意識が向かっていることが分かる。



でも聖は……?聖は優しいところは変わらない。花月への好きが伝わってくるのは分かる。でも……本気になった聖を見たことがない。だから……聖が何を考えていて、どうやって花月を振り向かせようとしているのか分からない。本気の聖がどれほどのことをするのかが分からない。





なのに…いや、だからかな……?僕の心にあるのは悔しさと苛立ちだ。


「明日から…頑張ろうな。」

「聖……僕と勝負しよう。」
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