生贄の花嫁      〜Lost girl〜
腹筋、背筋、スクワットを終え、身体じゅうが悲鳴を上げている。

それに比べ皆は息一つ上げていない。

「何で皆さんは……そんなに体力あるんですか…?」

「まあ、男の子だからってことはあるわね。ほら、いろいろあるじゃない。男の方が運動部が多いし、夜の運動でもリードするのは男だし。」
「なに普通のテンションで下世話なことを言ってるの。」


「だって、遠い話じゃないでしょ。協会からの4か月の期限…つまり、年が明ける頃には花月チャンはアタシたちの誰かと契りを結ぶ。体力がない子は可愛いけど子孫繁栄のためには回数こなさないとね。」




そうだ。あの時、私はまだ誰のことも選べなかった。年が明ける頃には誰かを選び、添い遂げる。でも誰かを選んだら…ほかの4人とは一緒にいられなくなるのかな…?




「花月……不安か…?」

「不安って言うか……誰かを選ばなきゃいけないんだって思うと……寂しいなって。こうやって皆で楽しく過ごせるのも…終わるのかなって…。」

「終わらせないよ。僕たちは家族。そりゃ、夫婦になったら踏み込めないことも増えてくる。でも、絶対に離れたりしないよ。それが花月の願いならなおさら。」

「そうですね…。今までこのうるさい中で共に生き暮らしてきたんです。壊れることなんてありませんし誰にも壊させませんよ。」

「そんなつまらないことで落ち込んでんじゃねえ。今を楽しめ。ほら、トレーニング再開すんぞ。」

「うん。」
――――――――ーーーー


「よーし、それじゃあラスト1本タイム取るよ。早い遅い気にしないで全力で走るように。」

「お前は走らねえのかよ。勉強はできても運動はできねえってか…?」

「……僕は支える人でいる。くだらないプライドに溺れて自分本位に生きるのはもうやめたんだ。準備ができたら声かけて。」



今までの奏だったらきっと、劉磨さんの言葉に言い返して喧嘩していた。でも奏はそうしなかった。


「お前……。」
「ほら、早くしないと日が暮れるよ。」


「奏、ありがとう……!」
「うん。」




奏は背中を押してくれた。私も応えられるように頑張るよ。
< 164 / 313 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop