生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―悠夜side—

私の言葉に振り向きもせず走っていってしまった彼女。奏が怪我を負っているということを知っているのだとしたら……彼女は何かを知っている……?

「…花月は…?」

「聖……逃げられてしまいました。私たちと……いたくない…そうです。」
「…それであいつを1人にしたのか…?」


「今の彼女には私たちがいることが大きな負担となります。それにご学友が彼女の側にいてくれるでしょう。」

「…楓が…いるんだ。」

「楓……貴方と縁談の話が合った理事長のご令嬢ですか…?」


「…ああ。親が勝手に決めた縁談で俺自身もあまり深く考えたことはなかったし興味もなかったし…どうでもいいって思ってたけど…あいつのヤバイ噂を聞いたことがある。」

「ヤバイ噂ですか…?」

「…あいつに関わった女は精神的に追い詰められて壊れるって噂だ。もともと人に好かれるような奴じゃねえしあいつ自身が人嫌いってのもあって、気に入らないやつを標的にして弄ぶんだ。いじめ、暴力…他にも数えきれないほどのことをしてるって噂だ。」

「ですが表立ったことはないでしょう。それに理事長のご令嬢という立場もあれば……すべて…」

「もみ消してるってこともあんだろ。誰もあいつに逆らえないことを分かっていてあいつはやってる。それにあいつは支配欲が強く、一部の生徒の間でペット制度も作ってるって噂だ。何を餌にしてんのかは知らねえけど…その代表として有名なのが水瀬結愛と水瀬あずさだ。」



「なぜそれを早く言わなかったのですか!?それが分かっていれば彼女をもっと早く守れたでしょう。」

「…言えるわけねえだろ…。花月が…傷つくかもしれねえって…分かってたから…。それに、楓が戻ってくるなんて……思わなかったし…。」

「ですが、面識のなかった彼女たちがどうして……。」


「多分俺のせいだ。俺が楓との婚約を断って花月を選んだから…それをあいつは理解したんだ。これは俺の思い込みかもしれねえけど……あいつの目は…花月のことを嫌っていた。花月を傷つけて俺のことも傷つけてやるって目をしてた。」

「……花月さんを探しますよ。詳しいことは後ですべて聞きます。今は…早く彼女を…。」



「俺が1人で探す。効率悪いことは分かってる。でも……俺が…けじめをつけなきゃいけねえんだ。悠夜は奏から話を聞いてくれ。水瀬たちが本当に関わっているのかどうか…。」


「……分かりました。その代わり、火力はほどほどにしてください。学園事火事にされたら私1人では責任を取り切れない。」


「…ああ。殺さない程度の力にする。」




“殺さない程度の力” 



普段、他人に興味を示さない聖の感情が激しく昂ったときに発する言葉。それほどまでに怒り狂っているという証拠。つくづく敵には回したくない。彼女のことを頼みましたよ、聖。
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