生贄の花嫁      〜Lost girl〜
パーン パーン

ドアを開けると綺麗に飾り付けがされた大広間。劉磨さんと奏が私たちの方へ向かって何かを発している。


「僕たちの屋敷へようこそ、姫。」
「特別に歓迎してやる。」


「え、これ、どういうこと!?たしか打ち合わせでは……」
「打ち合わせ…?」
「あ……。」

「花月と僕たちで姫の歓迎パーティーを企画したんだよ。花月は嘘をつくのが苦手だから、途中までしか教えてなかったんだけどね。それに劉磨にはさっき教えたし。」


「何が、察して、だよ。んなもん言われなきゃ気づくわけねえだろ。」

「何…これ……本当に、バカじゃないの…?こんなこと……私なんかにやっても、何の見返りもないのに……。」

「楓ちゃんは私たちの家族。それじゃ…ダメかな…?」



「家族家族って、血のつながりも何もない他人じゃない。ただ一緒に住んでいるだけなのに……何でこんなに…。」


「血のつながりがないからこそ、本気で向かい合うことができるのよ。お金を稼いできているから親だとか、養ってもらうから子どもとか、そういうことって本当に大切なことなのかしら。皆が平等の立場になれたとき、初めて感情を露わにして生きていけるんじゃないかしら…?」

「楓ちゃん…私ね、思うんだ。確かに、皆との血のつながりはあるわけじゃない。他人と言われてしまえば他人だけれど、利益や見返りがないからこそ自分自身をお互いに見つめることができて、他愛のないことで笑ったり、泣いたり…時には喧嘩も…できるんじゃないかな。何にもなくてまっさらな状態。だからこそ、自分を飾らなくていい、誤魔化さなくていい、ありのままでいていいんだと思うよ。だからね、今すぐには無理でも……私は、理事長の娘としての楓ちゃんじゃなくてありのままの朱鷺院楓ちゃんが見てみたい。少しずつ今までの氷を溶かしていこうよ。」


「私は…怖いよ…。理事長の娘としての私がなくなってしまったら……私には本当に何の価値もない。それが分かってしまうから…。」

「うん……でも…もしそうなったとしても、私たちはずっと側にいるよ。」

「…楓、これが最後の箱だ。お前が開けるために用意した。」





「これ…クローバーのネックレス…?」

「楓チャンのこれからの幸せを願って作ったのよ。たくさんのことを経験して楽しい人生を送れますようにって……。」

「お、泣いてんのか、病弱姫。」
「う、うるさい……言っておくけど私は我が儘よ。そんなに言うなら思うこと全部言うし、したいことするわよ。」

「お前が我が儘なのは今に始まったことじゃねえだろ。」
「傷ついたって知らないんだから!」


「楓ちゃん、ネックレスつけてあげようか…?」
「……うん…。」

「それにしても本当に綺麗なネックレスだね。」

「当然です。それは泰揮が作ったものなんですから。花月さんのイヤリングと同じ素材でできています。」

「そっか…そしたらお揃いだね。」

「さー、用事も済んだことだし食うぞ、飯。」


「メインは姫なんだから全部食べないでよ、劉磨。」
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