生贄の花嫁      〜Lost girl〜
「ありがとうございました~!」


クリスマス前日ということもあり昨日に比べお客様の数が一段と増えてきた。今日は結愛ちゃんと私が外でのケーキ販売、あずさちゃんと柚さんはケーキの補充を任されている。


「さすがに今日は寒いね……。ケーキ売れるのは嬉しいけど風邪ひきそう。」

「もう、明日がクリスマスだもんね。」


皆もクリスマスするのかな。いつも皆といるのが当たり前だったからなんだか不思議な感じがする。



「あ、お姉ちゃんたちケーキ売ってんの?」
「俺らと遊ぼーよ。どうせ1人なんだろ?」



体格のいい怖い雰囲気を漂わせている男の人たちに声をかけられた。本能的に恐怖を感じる。


「私たち、今仕事中なんで他を当たってください。」

「そんなこと言わないでさー、仕事なんかバックレればいいじゃん。俺らがいいことしてあげるからさ。」




こんなとき聖さんたちがいたら守ってくれていたんだろうな。



いや、そんなこと考えちゃだめだ。自分の力でどうにかしないと……。



「あの……仕事中ですし彼氏いるので、こういうの困ります。やめてください。」

「そんな冷たいこと言わないでさー。どうせクリスマスもほんとは1人なんだろ?俺らが慰めてあげるからさ。」



しつこい。本当は空手で倒したいけど……ここでそんなことしたらお店にも迷惑かけちゃう。どうしよう……。


「おい。」



不意に聞き覚えのある声が聞こえた。でも、その声はいつもよりも一段と低く怒りを感じた。


「なんだよ兄ちゃん、邪魔すんなって。」


声のした方を見ると明らかに不機嫌で怒っている聖さんが立っていた。今までに見たことの無い聖さんの姿に鳥肌が立つ。






「…そいつから手を放せ!」
「うっ……何しやがる。」

「…手を放さねえならこの場でお前らを燃やす。死にたくねえならとっとと失せろ!」

「ちっ……おい、ズラかるぞ。」


そそくさと去っていく男たち。男たちが見えなくなると聖さんが私の腕を引いた。



「…水瀬、花月は返してもらう。」


「聖さん、私はまだ帰らない。」
「……嘘、ついたんだな。水瀬たちとクリスマスを過ごすんじゃなかったのかよ。」


「嘘ついたことは謝ります。でも……私はまだ帰りません。仕事もあるし、まだ目的を果たせてない。」

「…俺と仕事とどっちが大事なんだよ!」


声を荒げる聖さん。勿論聖さんのことが大切。でも……だからこそ今回だけは絶対に引きたくない。





「今は……仕事の方が大切なんです。」

「花月ちゃん……。」





「……そうかよ。それなら勝手にしてくれ……。」



私の手を放し走っていく聖さん。本当はあんなこと言いたくなかった。でも……聖さんに喜んでほしいから。驚かせたかったからアルバイトをするって決めたのに……。




「ちょっと、表がさっきから騒がしいけどどうしたの?」

「あ、店長。ちょっと、トラブっちゃって……うるさくしてすみません。花月ちゃん、大丈夫?」
「店長さん、私情を持ち込んでしまってすみませんでした。」


「何かあったらすぐに言うんだよ。」

「はい……。」





「花月ちゃん、本当に大丈夫…?緑川くんが怒ってるの初めて見た。ごめんね、私たちのせいで…。」

「ううん…大丈夫。ごめんね、うるさくして……。」


「緑川くんの後、追いかけたほうがいいよ…。」


「ううん、後でメールするから大丈夫。それより、ケーキ売らないと!」
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