離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 会社のあるビルの一階まで下りたとき、ロビーでまた声がかかった。


「いずみさん、お疲れ様」


 振り向くと、滝沢さんが私の後を追ってきていた。私が乗ったエレベーターの、隣のに乗っていたらしい。


「お疲れ様です」
「良かったら、飯行かないか」
「そうですね……、はい。いいですよ」

 少しだけ考えて、返事と同時に頷いた。さすがに今日は、和也さんは取引先のお偉いさんとプライベートな会食という名の接待だ。家で食べるとは言わないだろう。

 先月に離婚予定日の話をするまでのこの三年、平日は大抵仕事の付き合いで埋め尽くされて、彼と夜に家で会うことは殆どなかった。
 結婚するまではちょくちょく飲みに行っていたのも、なくなったのだ。おそらくは、結婚したことで私との仲を敢えて人に見せて誤解させる必要がなくなったからだと思う。それと、気を使ってくれていたのだろう。覚悟の上のルームシェアとはいえ、上司と家でまで顔を合わせないように。

 それがこのひと月で一変した。これがまず、おかしいところのうちのひとつだ。

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