愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~



七月に入り、母子手帳をもらった。
妊婦検診も始まり、いよいよ出産に向けての心構えも芽生えてくる。
つわりはまだまだ治まる気配がなく、一日中船酔いしているような日々が続いていた。


「今夜は俺が夕飯を作るよ」


スーパーの惣菜売り場の匂いがダメな私に代わって買い物に行ってくれた涼介さんが、帰宅して手を洗いながら言った。


「え、涼介さんが?」


これまでにない発言に、私は口を開けたまま固まる。


「この土鍋、使っていい?」


シャツの袖を捲った涼介さんは、テキパキと買い物袋から材料を取り出した。


「いいけど……なにを作るの? 私も手伝うよ」


キッチンに近寄る私を、涼介さんが手で制する。


「大丈夫。出来てからのお楽しみだから、菜緒は座ってて」


ウインクみたいに片目を細められ、キュンとした私は言われるがまま、おとなしくソファの定位置に戻った。

鼻歌を歌いながら、涼介さんは野菜を切っているようだ。土鍋には米を入れている。

涼介さんには料理の経験があるのだろうか。包丁とか使えるのかな。火加減は大丈夫かしら。

気になってそわそわしながらキッチンをチラ見すること約三十分。部屋には甘じょっぱい、いい香りが漂ってきた。


「二十分蒸らして完成、と」


独り言をつぶやき、涼介さんは食器を準備している。


「そろそろそっちに行ってもいいかな」


私が恐る恐る聞くと、涼介さんからのオッケーが出たのでキッチンに歩み寄った。
調理で使った洗い物を手伝い、二十分ほど経った頃。


「そろそろいいかな」


土鍋の蓋を開けると、湯気が立ち込めた。
懐かしい香りが漂ってくる。
< 106 / 119 >

この作品をシェア

pagetop