愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
菜緒は妊娠している。妊娠検査薬で陽性が出たのだ。
感染症にも気をつけなければならないし、菜緒はつわりが重いようなので無理はさせられない。

でも、行きたいって言うだろうな。なんとか説得しなくては。
いや、ストレスは母体によくないと聞くし、行きたいのなら細心の注意を払って行かせた方がいいのだろうか。

しかし、今の体ではさすがに心配だ。
また倒れるような事態となっては、俺の心臓がもたない。


「涼介さん、そろそろ約束の時間だよね」


休んでいた菜緒が寝室から出てきたので、俺は携帯をそっと伏せてソファから立ち上がった。


「大丈夫か? 辛かったら日をずらせるけど……」
「平気。それよりわざわざ家まで来てもらって、なんだか申し訳ない」
「いや、前から実家がお世話になってる外商さんだし、そこは気にしなくてもいいんだよ」


キッチンでお茶の準備を始めた菜緒から、俺はケトルを奪う。


「菜緒は座ってて」


少し青白い顔をした菜緒は、逡巡したのち微笑んだ。

今日は、母が菜緒に渡したブルーサファイヤの指輪のサイズ直しを依頼した百貨店のジュエリーショップの店長と、百貨店の外商担当がマンションに来る日だ。
菜緒の指輪サイズを測り、他に直す部分がないか確認したいとのことだった。

本当はお節介な唯子が手を回したんだけれど、それを話すと菜緒が気にするかもしれないから黙っている。

唯子は昔からなんでもズバズバ言うタイプで、どちらかというと男友だちみたいなものだ。
俺の婚約者候補だったときも、きっぱりと、自分は誰とも政略結婚する気はないと言っていた。

だから菜緒が俺らの仲を気にするのはお門違い。
けれどもまたいつか、菜緒の妬いている顔も見たい、なんて贅沢なことを考えてしまう。

お茶の準備が整って、俺はソファに座る菜緒の元に歩み寄った。


「ありがとう、涼介さん。まだ時間ある?」


菜緒は振り向いて、リビングの壁にかけた時計を確認した。

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