愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「そろそろ来る頃かな」


菜緒の目線をたどりながら言って、隣に腰を下ろすと。


「だったら、お願いがあるんだけど……」


菜緒は言いづらそうに唇をキュッと結んだ。


「お願い? なに?」


ふっと笑って問いかけると、菜緒は上げた目線を左右に振る。


「おまじない、してほしいの」
「おまじない?」


目をしばたかせた俺に、菜緒はこくりと頷いた。


「ほら、前にしてくれたじゃない」


頬の血色がどんどんよくなってゆく菜緒は、躊躇いがちに続ける。


「あのときみたいな好きになるおまじないじゃなくて、今日は、安心するおまじない」


声は次第にフェードアウトして、最後の方はほとんど聞き取れなかった。
菜緒は膝を抱える体勢でうつむいた。


「……参ったな」


心の声がうっかり漏れていたようで、菜緒はゆっくりと顔を上げる。


「そういうの、勘弁してくれ」


俺は文字通り頭を抱えた。


「そういうの、って?」
「そうやって、俺をドキドキさせるのだよ。これじゃあ俺、理性がいくつあっても足りないだろ?」


言葉の意味がよく理解できていないらしき菜緒が放心している隙に、素早く抱き寄せる。

右手で菜緒の後頭部を優しく支え、左手は菜緒の顎を持ち上げる。
加減できるギリギリの強さで、菜緒の唇を欲した。


「んっ……」


角度を変えるたび、菜緒の唇の端から甘い吐息が漏れる。
それだけで耳が壊れるんじゃないかと不安になるほど、熱く焦がれる。

全身菜緒を渇望する欲で支配されるけれど、大切な存在が増えて、これまでよりも菜緒を大切に柔らかく包み込みたいと思うようになった。
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