恋の蛇足
「なるほどね。それからは?」

「会ってない。もう一年になるかな」

美紀の小さなため息は私の悲しみに同調しつつ、どこか安堵しているようだった。

この痛みを友達に話して忘れてしまうのは怖くて、美紀に会うのもおよそ一年振りだった。
その間、一心不乱に仕事をしては夜遅くに牛丼屋を避けて帰り、家に残る彼との思い出に嗚咽する日々を繰り返しているうちに少しずつ彼との記憶が幻のように思えて、それが寂しくてまた職場のほど近くに転居した。

「連絡先はすぐ消したし、彼からも連絡はなかった。割りとすぐに彼は転勤になって、その後に転職したって話も聞いたから、もう会う機会はないと思う」

「瞳子は、それでよかったの?」

「……正直、分からない。
でも、今考えても思うのは、名前のない関係性のままではいるのは堪えられなかった。その時は良くても、やっぱりいつかは結婚したいし」

美紀は激しく共感してくれると思ったが、ふと真面目な表情になった。

「同じ理由かも知れないね」

「え?」

「彼が曖昧な関係性を求めていたのも、瞳子とずっと一緒にいたかったからじゃないかな。瞳子が求めていたかたちとは違ったけど」

『この関係のままじゃ、嫌か』なんて、嫌だったら聞かないか。
彼も同じようにどうにもならない気持ちでいた。

「それじゃあ、最後に会った時まで」

決して蛇足ではなかった。
必要な時間だった。
かけがえのない時間だった。
ただきっと、食べることだけが私たちを同じ気持ちで繋いでいた。
それでも、そういう二人だけの関係を築き上げてきた。

美紀が、私の言葉の続きを促すようにこちらを見つめていた。

でも、彼の笑顔が鮮やかに思い出されて言葉にならなかった。
私は息をすることも泣くこともできず、何故かただひたすらにご飯を食べる彼の姿だけを思い出し続けていた。



終わり
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