不眠姫と腹黒王子



「私…宮に嫌われたかもしれない。」
「宮くんに?どうして?」
「私がしつこくして…そのあと嫌な顔してた。」
「それで?」
「怖くて走って逃げた。」
「ハハッ…」

お父さんは「潔い」なんて言って笑った。

「宮に嫌われたら…私…」
「嫌いとは決まってないだろ?
円が不安になってるのも、宮くんの表情だけで判断した結果だ。」
「うん…」
「人には言葉で伝えなきゃ伝わらないよ。」


お父さんは遠くを見るような目をしていた。

お父さんはきっと、お母さんの過労死を防げたと後悔している。
もっとお母さんと会話をしていれば、
ちゃんとお母さんを見ていたのなら、って。

平気だと言って笑っていたお母さんの
弱々しい笑顔を思い出す。

お父さん、私だって同じだよ。
お母さんとの会話が少なかったのも、見ていなかったのも。

それでも、罪ではない罪を、背負うのではなく共に生きると、不眠症が治った日お父さんと誓った。


「そうだね。」
「友達とのいざこざは、面と向かって話し合うのが一番だよ。」
「…うん。」

お父さんの優しい笑顔が私の眠気を誘う。


宮にはまだ言葉で伝えられる。
私は、宮に伝えたいことがあるんだ。


「円はいつも頑張りすぎるからね。
別に眠れなくたっていい。
怖いなら逃げていい。
円のペースでいいんだよ。」

「…ん…。」

「ゆっくりお休み。」


私は朝日の差し込む中で、
溶けるように目を閉じた。


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