寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
雪乃はこの状況の中で、ほんの一瞬だけ、恐怖よりもうれしさが勝った。
『お待たせ致しました。変電所の不具合による停電のため一時停車しておりましたが、間もなく予備電源にて走行を再開致します。なお、車内は消灯したまま走行致しますので、お足もとにご注意ください』
五分ほどで再開のアナウンスが流れた。暗い車内の異様な雰囲気はそのままに、電車は待ったなしに動き出す。
雪乃はといえば、まだ男性に手を添えてもらいながら呼吸を整えようと頑張っていた。
憧れの人と話せたとはいえ、五分の間に暗闇への恐怖は増し、それを受け止めることに使う精神はじわじわとすり減っていく。
「走りましたね」
男性は声をかけた。それは「もう離れても大丈夫か」という問いかけでもあったのだが、雪乃はいよいよ息が詰まって返事ができず、彼の袖も離せない。
男性は悩んだがいろいろと吹っ切れ、浅い呼吸の止まない彼女の背中を擦り続ける。
雪乃は恐怖と熱で意識が朦朧とする中、終着駅まで目を瞑り、彼の手に身を任せていた。