寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「……細川さん……」
実際に見えている部分だけではなく、雪乃の全てが魅力的に感じられた。そんな女性と一緒のベッドに入っているというこの状況は、チャンス以外の何物でもない。
(布団の中で手を握ってしまおうか)
晴久がそんな欲望にかられていたとき、雪乃は「だから」と言葉を続けた。
「高杉さんが声をかけてくれたのも、家に誘ってくれたのも、全部優しさだって知っていました。他の男性みたいに下心がないって分かっていたので、安心できたんです」
晴久は毛布の中で伸ばしかけていた手をサッと戻した。無垢な笑顔を向けてくる雪乃に「なるほど」と小さく相づちを打ち、体の向きも正す。
(危なかった)
早計だった欲望を抑え、冷静になった。ここで下心を出したら、あまりにも台無しだ。
それでも彼女を魅力的に感じている事実は消せず、再度少しだけ横目で盗み見る。
「……細川さん?」
かすかな寝息が聞こえている。
すでに目を閉じて眠っていた雪乃に晴久は拍子抜けしたが、その澄んだ寝顔に心は和らいだ。
色々あったのだから寝かせてあげよう。そう思って彼女の首まで掛け布団を引き上げ、愛しさをこめて「おやすみ」とつぶやいた。