寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
雪乃は彼のスピーディーな変身に「おおっ」と心の中で感心する。
晴久が素顔を晒した途端、周囲を歩いていた女性達はちらちらと彼を見始めた。中には回り込んで顔を盗み見て歩く女性も。
晴久が嫌がっていたのはこれか、と同情しながらも、これでは自分も同じことをしているだけだと思うと恥ずかしくなり、雪乃は彼を目で追うのはやめた。
引き続き晴久の後ろを歩く形となっているが、話しかけることはせず、大人しくこのまま会社へ行こうと決めた雪乃。
しかし、晴久は自分の行き先と同じルートばかりを進んでいく。
(あれ? もしかして……)
疑いを持ち始めたその予感は的中し、晴久は雪乃と同じ目的地、毎日通うこのオフィスへと入っていったのだった。
「高杉課長、おはようございます!」
晴久がオフィスへ入った瞬間、始業準備を始めている受付嬢を筆頭に、すれ違う人々は憧れの眼差しを向けながら彼に挨拶をする。
数メートル後ろにいる雪乃はそれを体感するかのごとく目の当たりにした。
晴久がこの会社の課長。雪乃の頭は混乱したが、事実は単純なことだった。