寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
雪乃の説明はすべてではなかった。
晴久は、昨夜の、泣きながら震えていた彼女を思い出した。
襲われた事実についてだけ隠していたのは、おそらくそれはまだ彼女の中で消化しきれていないということ。
気持ちを落ち着けて頭を整理し、晴久はスッと冷静な表情に戻すと、小山を睨んだ。
「……おい。その話は彼女のプライバシーに関わる。例え俺にでも軽々しく話すべきじゃないだろう。よく考えろ」
「え? あ、はい。すいません……」
彼女のトラウマは予想以上に影を落とすものだった。
誰かに守ってもらえることもなく、ひとりで暗闇に怯えて、素顔を明かすこともできず、恐怖ゆえ男を頼ることもできない。
そんな雪乃の孤独を考えると、晴久は可哀想でならなかった。
『是非今度、昨日のお礼がしたいです』
なら、あれは彼女なりのSOSだったのでは。
誰にも頼れなかった雪乃にとっては昨夜のことは特別で、これからも晴久を頼りたいという期待が込められていたのかもしれない。それを無下に切り捨ててしまった。
(……なにをやってるんだ、俺は)
晴久は彼女を傷付けたことを自覚すると、後悔に苛まれた。