寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「怒っていますよね、今朝のこと。申し訳ありませんでした」
昨夜の彼女に比べてあまりにも口数が少なく、怒っていると判断した晴久はまずは謝罪から入る。
これには電話口の雪乃も「えっ」とトーンの高い声で反応した。
『そんな、私、怒ってないです』
「いえ、俺が失礼なことを送ってしまったんです。できれば直接謝罪をしたいので、帰宅するときは連絡を貰えるとうれしいです。駅まで行きますから、家までお送りします」
『……高杉さん』
晴久は誠心誠意、できることを提案したつもりだったが、雪乃の声は切ないまま。これではダメか、と策を練っても、電話ではらちが明かなかった。
音量を最大にしても聞き取りにくい彼女の声を拾うため、晴久はスマホを耳にあてたまま駅を出て静かな場所へ移動した。
「とにかく話しましょう。駅で待ってますからーー」
『高杉さん、待って下さい。切らないで……』
「え? ええ、はい」
『このまま……なにか話していてもらえませんか』
晴久は足を止める。
「……どういうことです?」
携帯をこれでもかと強く耳に寄せてみる。
息の震えと、鼻をすする音。晴久は雪乃の様子がおかしいと気付いた。
彼女の声は電話に出たときからなにかに怯えている。