谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
令嬢たちの声は、慣例により一曲目に婚約者のグランホルム大尉とダンスをしたあと、vinbä saftで喉の渇きを潤していたリリの耳にも入ってきた。
当然、隣でbrännvinを含んでいた彼にも聞こえていることだろう。
しかし、二人の間には会話がなかったので、彼がどのように思っているかは彼女には測りかねた。
そのとき、向こうから声がかかった。
『ごきげんよう、ビョルン……こんな隅にいたのね?まるで壁の花ではないの』
黒みがかった栗色の髪に榛色の瞳の美しい女性が、長身の男性にエスコートされてやってきた。
『こちらが……あなたの婚約者になった方よね?
……私たちに紹介してちょうだいな』
石榴石色のそのイブニングドレスは、ヒップの部分がふっくらと盛り上がったバッスルスタイルで、リリと同じ最新デザインだった。
ちょこんと乗った帽子も小振りで、たっぷりと結われた髪も同じだ。