谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
『私たちの婚約者たちは「殿方のお話」があるそうよ?……ねぇ、少しばかり外へ出てみない?
こちらの伯爵邸のお庭はとてもすばらしくてよ』
『そうだね。ぜひ、ウルラ=ブリッドと一緒に散策するといいよ』
ウルラ=ブリッド令嬢の「提案」に、彼女の婚約者はまさに「貴公子」というふうに気品高く微笑んで後押しした。
それでも決めかねるリリは、隣にいる自身の婚約者を仰ぎ見た。
すると彼が肯いたので、彼女は『それでは……』とウルラ=ブリッド令嬢と庭に出てみることにした。
リリは大広間を去るとき、並んで立つグランホルム家の兄弟をちらりと見た。
白金の髪に琥珀色の瞳を持つ彼らは、とてもよく似ていた。
だが、二人ともこの国の男たちによく見られる長身ではあるけれども、兄の方がほんの少しだけ高く、学究肌であるためかすらりとしていて、弟の方は軍隊で鍛えられたのか、がっしりとして身体に厚みがあった。
『ビョルン、その仏頂面は失礼だぞ。
……あのように美しい婚約者だというのに……』
兄が弟を窘める声が聞こえてきた。
しかし、そのあとに発された弟の言葉は、突如始まったダンスを誘う楽団の調べにかき消されて、聞こえなくなった。