谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
彼らは四阿をあとにした。
グランホルム氏とウルラ=ブリッド令嬢が腕を組んで歩き、谷間の姫百合の咲き誇る一角から、広間へと戻る小径に出る。
グランホルム大尉とリリも、彼らの後方で同じく腕を組んで歩く。
前を行く二人は仲良さげに顔を見合わせながら、話題に事欠くことなく会話が続いていた。
だが、後ろの二人は互いにむっつり押し黙ったままだった。
『あ…あの……グランホルム大尉……』
とうとう沈黙を破って、リリは話しかけてみた。
大尉がリリを見る。
彼女は女性の中では背の高い部類ではあるし、今は踵が相当高い履物なのだが、それでも頭半分くらいの身長差があるため、彼が見下ろす形になる。
『先ほど、ヘッグルンド令嬢から伺って……大尉は、乗馬がお好きだとか……』
そして、リリは思い切って顔を上げ、大尉に訊いてみた。
『あの……それで……これを機会に、私も乗馬をやってみようかと……』
『…………ない』
即座につぶやかれた大尉の声はくぐもり、至近距離のはずのリリにさえ聞き取れなかった。
『はい?……申し訳ありません。うまく聞き取れなくて……』
すると、今度は、はっきりと告げられた。