谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜

「……修道院?」

険しい表情の大尉の眉の片方が上がった。

「シェーンベリの家は、代々ローマ・カトリックなの」

彼女はカトリック教会で幼児洗礼を受けた際に、かつて実在したスウェーデンの聖女・Katharina(カタリナ)の洗礼名を司祭から授けられていた。
リリコンヴァーリェ・カタリナ・シェーンベリが彼女の正式な名前である。

リリは肌身離さずつけているロザリオを手繰(たぐ)り寄せ、その十字架(メダイ)の部分を、そっとやさしく握りしめる。

「そして、私は特にマリア様を厚く信仰していてよ」

聖母マリアは、福音ルター派(プロテスタント)の男爵・グランホルム家では信仰の対象にはならない存在だ。

「だから、あなたとの結婚を取りやめたい理由の一つに、プロテスタントに改宗したくないのもあるわ」

リリはここまで話すつもりは毛頭なく、なるだけ穏便に済ませようと腐心してきた。
だがこの大尉には、はっきりと言わぬままでは(らち)が開かないと、ようやく気づいた。

この際……すっかり話してしまおう、と決意した。

「日頃から奉仕活動のお手伝いをさせてもらっているイェーテボリの修道院のNunna(修道女長)に、生まれた身分も環境も宗教観もまったく異なるあなたとの結婚に、不安を感じていることを相談したの。
慈悲深い修道女長は、私がこれからも変わらずマリア様への信仰を貫きたければ……私に、あなたとの結婚をやめて、すべてを捨てる覚悟があれば……いつでも修道院に迎えるとおっしゃってくだすったわ」


「……それで、あなたは私の妻になるより『神の花嫁』になろうとしているのか」

大尉は忌々しげに嘆息した。

「あなたは本当に、その修道女に入れ知恵されたとおりに、これから先の人生を、一生修道院で過ごす気なのか?」

「……『入れ知恵』って……そんな言い方……ひどいわ……!」

リリは(たま)らず大きな声になってしまった。

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