七色
 写真やテレビ、水族館でガラス越しに目にする海の世界に満足して全部を知った気になっていたけれど、僕はいったいこの世界の何を知っていたというのだろう。

 神長くんが海の中に潜って、熱帯魚の隠れている場所を教えてくれた。
 僕は顔を上げて何度か息継ぎをしては海の世界へと舞い戻り、神長くんの指先を追う。この岩場から離れられないのがもどかしかった。

 どぶんと波が立ち、急に視界が泡に包まれた。驚いて身体を起こしたが、洋服はすでにびしょ濡れだ。僕のすぐ脇から飛び込んだのは、さっきの男の子とその友達だ。

 子供たちは神長くんに近付いていく。神長くんはこのあたりで見える魚の名前を教えてあげている。慌ててこちらにやってきた母親たちは「すみません」なんて言いながらも、子供たちを神長くんに任せている。

 優月くんがタオルを貸してくれた。僕はマスクをはずして顔を拭き、結局ずぶ濡れになってしまった服をタオルで軽く押さえた。

 テントにスマートフォンを取りに戻り、海に浮かぶ子供たちと神長くんの写真を撮った。

 どうしようもなく下手くそな写真だったけれど、この気持ちを思い出すための鍵の代わりになればいい。
< 15 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop