七色
 唖然としているであろう僕の顔を見ながら、優月くんはパンツを膝まで捲り上げて海に足を浸した。

「せっかくだもの、写真じゃわからないパノラマを感じなきゃ。どんなに高性能なカメラだって、人の目には敵わないんだから」

「いや、でも水着が」
 僕は助けを求めるように、こちらに近付いてきた神長くんに視線を向ける。神長くんはさも可笑しそうに、くっくと笑いを噛み殺している。

「マスク貸すから、そこから顔だけつけてみれば?」
 神長くんは僕のデイパックを預かる代わりに、自分のマスクを貸してくれた。この岩場で顔をつけるだけなら、今こうやって見下ろすのと変わらないのに。

そう思いながらもしぶしぶマスクを被って、ストラップの調節をしてもらう。海面と高さが近い岩場まで降り、軽く身を乗り出してみる。熱帯魚らしきヴィヴィッドカラーがちらちらと海の中を行き来している。

 肺にたっぷり空気を溜めて海面に頭を沈めた。緩やかに立つ波が耳元を覆う。人の話し声も、さざなみの音も、蝉の声も、全ての音が水の膜に覆われる。

 上から覗いても見通せると思っていた熱帯魚の海は信じられないほどクリアに、僕の前に広がっている。絵に描いたような鮮やかな色をした魚が岩場の隅や海藻の合間にゆらゆらと漂う姿は、外の全てが喧騒に感じるほど穏やかな世界に見えた。
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