七色
 京急川崎駅で一旦下車して、システム部の後輩に連絡を入れる。とりあえずシステムダウンの原因となる機能の一部をストップし、代替手順を社内メールで他部署に回すように指示をして電話を切った。

 夜に家のPCから軽くチェックして、朝一で出社しよう。

 一度伸びをして、頭の中を空にする。次の快特に乗る前に飲みものでも買おうかと思ったら、飛ぶ鳥落とす勢いで若い男が階段を駆け上がってきた。ホームを蹴るたび目にかかる、長めの前髪を煩そうに片手で押さえる。髪と同じ色をした明るい瞳が一瞬僕を見た。

 ふっと爽やかな香りを残して彼がすぐ目の前を通り越したとき、白い足に引っかかっていたビーチサンダルの片方が僕の前に置き去りになった。

「あ、ちょっと!」思わず呼び止めると、彼は今にもドアが閉まろうとする電車の前で止まり、「これ、三崎口までいきますよね?!」と振り返った。

 唐突な質問に、電光掲示板を見上げて行き先を再確認する。僕の口から出たのは「いや」という一言だけだったが、彼は息を切らしたままそこで立ち止まった。

 扉は閉まり、赤い電車はガタゴトと僕らの前を通り過ぎる。熱にゆらぐ線路が見えると、急に夏の蒸し暑さが戻ってきた。
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