七色
「すみません」
 彼は恥ずかしそうに俯いて、片足が裸足のままぺたぺたと歩み寄ってきた。ビーチサンダルを引っ掛けて顔を上げる。大学生くらいだろうか、ずいぶん若い。

「友達との待ち合わせに間に合わないかと思ったら、テンパッちゃって」
 照れ隠しか、彼は事情を説明し始める。

「次ちょうど快特くるよ、三崎口行きの」
「……ああ、良かったあ。日が落ちちゃうとシュノーケリングしてもイマイチだから、早く着きたくて」

「シュノーケリング? 三崎口で出来るの?」
 僕は思わず訊き返していた。

 確かに海があれば海水浴場のひとつやふたつはあるだろう。しかし、泳ぐことは出来てもシュノーケリングはさすがに無理があるんじゃないかと思っていたら「今、『神奈川の海で何を見るんだ』って思ったでしょう」と、僕の心を読んだように彼は笑った。

「実は俺も去年友人から聞いたとき、同じこと思った。でも毎年夏には熱帯魚がけっこういるみたい。黒潮の海流に乗って来るらしいですよ」

「へえ、そうなんだ」
「潮溜まりでも見れますよ。良かったら一緒に行きます?」

「え」
 いきなり何を言い出すのだ、この男は。遠慮しようとしたところで、ちょうど快特が来た。
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