氷の美女と冷血王子
追う男
「孝太郎」
前方から右手を挙げて近づく男。

「ああ」
わざわざ向かえにきてくれた友人に礼も言わず、俺は無表情で答えた。

「機嫌が悪いな」

そりゃあ機嫌だって悪くなるだろう、昨日から麗子と連絡が取れないんだ。
数日前まで普通だったし、出張に出る前日は朝まで一緒だった。
それが・・・


足早に空港を出ると、徹の車に乗り込む。
本来明日の夜帰る予定だった俺は、会社にも家にも黙って帰ってきた。
まあ。予定していた仕事はすべてこなしたし、家に連絡すればやかましく言われるだけだろうから黙っていた方が無難と考えた。
お陰で迎えを呼ぶこともできず、徹を呼ぶしかなかったわけだ。

「で、何があった?」
昨日から何度聞いても答えの返ってこない質問を、再び口にしてみる。

「彼女が会社を辞めた」
「だからっ」
苛立ち紛れに声が大きくなってしまった。

麗子が仕事を辞めたこと、昨日から連絡が取れないことは分かっている。

「俺が聞きたいのはその理由だ」

「俺は彼女じゃないから、何を思っているのかまではわからない。ただ、おばさんがからんでいるらしい」
「母さん?」
「ああ」

はあー、そういうことか。

元々お嬢さん育ちの母さんは、『女は家庭に入って家族を支えるべき』って持論を持っているから、働く女性に対する見方が厳しい。
麗子のことを気に入るはずがないのは分かっていたんだが・・・

「それで、麗子はどこにいるんだ?」
「知らないよ」
「はあ?」

なぜ探さない?どんな手を使っても探せよ。
徹がその気になれば居場所なんてすぐに突き止められるだろう。

「大体さあ、見つけ出してどうするんだよ?あいつも頑固だから、力ずくで言うことを聞くような奴じゃないぞ」

「・・・」
確かに、強硬手段には出られないか。

悔しいが、俺よりもずっと以前から麗子のことを知っている徹は、性格も行動もよく理解している。
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