氷の美女と冷血王子
「申し訳ありません、私『フローリスト暖〈だん〉』の者です。週に1度こちらのフロアのお花を交換させていただいております」
はっきりと俺の方に向き直り名乗った女性。

この人は・・・やっぱり。
気のせいではなかった。
1度見たら忘れられないような美人。
数日前に始めてあった人が今目の前にいた。

「専務?」
ボケッとしてしまった俺に、不思議そうな顔をする秘書。

「あ、ああ。お花屋さんね。で、何でお花屋さんがパソコンの修理を?」
「それは・・・」

そこを突かれれば、秘書は黙るしかない。
それがわかっていて聞く俺は、やっぱり鬼かもしれない。
さあ、どう答える気だ?と俺は美女を見た。


「修理なんて大げさなものではありません。お困りのようでしたのでパソコンを少し前の状態に戻しただけで、御社のシステムにアクセスなどしておりません」

キッパリ言い切り、近くに置いていたバケツやゴミを片付け始めた美女。
様子を見ていた秘書達も、困ったように立ち尽くしている。

スーツ姿できっちり化粧を決めている秘書達に比べ、作業着にエプロン姿で髪も1つに束ね、顔はマスクでほとんど隠れている彼女は見劣りしそうなものなのに・・・やはり、綺麗だ。
顔が綺麗とかスタイルが良いとかではなく、彼女がまとう凜とした空気が周囲とは違う。

荷物をまとめ、秘書室から出て行く準備ができた彼女は、
「出過ぎたことをして申し訳ありませんでした。これは私が一存でしたことですので、今回のことが原因で契約を切るなんておっしゃらないでください。これから私ではなく他の者を来させますので、どうかお許しください」
そう言って、深々と頭を下げた。

「別に、そんなことを言うつもりはない」
不機嫌そうに答えてしまった。

なんだか不快だ。
『こんな些細なことで契約を切るなんて度量の狭いことはしないわよね?』と言われたようで、『そんなことはしない』と言わせられたようで、してやられた気分だ。

「では失礼します」
俺の反応を待つことなく、彼女は出て行ってしまった。

このままにはできない。
きちんと話をしよう。
この時、俺ははっきりと彼女を意識した。
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