氷の美女と冷血王子
ブーブーブー。

ん?

徹からの着信。
珍しいなこんな時間に。
時々メールが来ることはあっても着信は滅多にないし、ましてや平日の昼間。
もしかして、良くないことでも・・・

鳴り続ける携帯を手に、私は一瞬躊躇った。

怖いな。不安だな。

できることなら出たくない気もする。
でも、わざわざ徹がかけてくるって事は緊急事態かもしれないから、

「もしもし」
恐る恐る通話ボタンを押した。

『麗子か?』

「ええ」

私の携帯にかけたんだから、他に誰が出るって言うのよって、突っ込みを入れたい気持ちをグッとこらえた。

『麗子、落ち着いて聞けよ』

「どうしたの?」

どちらかというと、落ち着いて欲しいのは、徹あなたの方。

「孝太郎がケガをして、病院へ運ばれた」

えっ。

私の頭の中でキーンと耳鳴りのような音がして、目の前が霞んだ。

嘘、ウソだよね。
そんなはずはない。
孝太郎に、何かあるはずなんて、

「麗子・・・しっかりしろ、麗子」
遠くの方で徹の声がする。

「容体は?」
やっとの事で絞り出した言葉は、震えていた。

「重体だ。予断を許さない状態」

「そんな・・・」

イヤだ。
孝太郎がいなくなるなんてありえない。

「搬送先は中央病院だ。とにかく、行け」
それだけ言うと、電話は切れてしまった。

中央病院・・・中央病院
私は呪文のように繰り返しながら、携帯を握りしめて部屋を飛び出した。
< 197 / 218 >

この作品をシェア

pagetop