氷の美女と冷血王子
「1ヶ月ほど前、たまたま花屋の配達できていた彼女を見かけたんだ。驚いたよ」
「だろうな」
「約10年ぶりだったしな。でも、すぐに彼女と分かった。大人になって一段と綺麗にはなっていても、面影はあったし」

その時の徹がどれだけ驚いたのか、今の反応でよくわかる。

「声をかけなかったのか?」
「お互い仕事中だったし」

徹らしい。

「そう言えば、彼女は何で花屋のバイトをしているんだ?」
大学も一流大の工学部だって言っていたし、もっと他の就職先がありそうなものなのに。

「俺もはっきりとしたことは知らないが、大学を卒業後1度はSEとして就職をしたらしい。でも、半年も勤めずにやめたって噂だ」
「やめた?何で?」

せっかく入った会社を簡単に逃出すようには見えない。

「不倫をしただの、情報漏洩をして首になっただのと噂はつきないが、実際にはわからない。ただ、いい加減な気持ちで逃出す奴でもないし、不倫や情報漏洩なんてあいつらしくない。きっと何か、事情があったんだろうと俺は思う」
「俺も、そう思う」
「へぇ?」
思わず出た俺の言葉に、徹が目を丸くした。

「孝太郎、お前・・・」

「徹に隠してもどうしようもないから言うが、青井麗子が気になっている。できれば秘書として側に置きたい」

「本気か?」
「ああ」
月曜の朝っぱらからわざわざ呼び出して、こんな冗談を言うほど俺は暇じゃない。

「彼女に打診してみてくれるか?」
俺が話すよりも徹の方がいいだろうから。

「ああ、聞いてみる」
「併せて、彼女が前の会社をやめた経緯も調べてみて欲しい」
「分かった。調べてみるよ」
ニタニタと含み笑いを浮かべながら、俺の方を見ている。

「何だよ」
何か言いたいことがありそうだ。

「別に。孝太郎にしては珍しく本気だなって思ってさ」

フン。好きに言ってろ。

「とにかく、彼女をここに連れてきてくれ」
後はこっちでなんとでもする。

「分かった、話してみる」
「頼んだぞ」
「ああ」

さあ、彼女がどう出るか。
今は徹を信じてみるしかない。
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