氷の美女と冷血王子
バタン。
一旦入り口まで戻り、廊下に続くドアを閉めた課長が専務のもとへ歩み寄る。


「一体何を考えている?お前はあんな挑発に乗るような人間ではないはずだろう?」
とても上司に対する言葉とは思えない口をきいた課長。

専務は黙って私の入れたコーヒーに手を伸ばした。

「青井君、徹にもコーヒーを入れてやって」
「はい」

そうだった。
この2人は幼なじみ。
子供の頃から共に育った仲と聞いた。
だから、こんな風に言い合えるんだ。


「で、どうしたんだ?孝太郎らしくもない」
「そうだな」

「何があった?」
「何もない。ただ」
「ただ?」

「イラッとして、ついカッとなった」
「だから、その理由を聞いているんだ」
どっかりとソファーに体を預け、コーヒーを口にする課長。

「そんなもの・・・ない」

「そうか?」
ちょっと意地悪な表情になった課長が、
「青井さん、ちょっと来てくれる?」
部屋の入り口に立っていた私の方を見ると、ポンポンと座っているソファーの隣を叩いた。

「は、はい」
言われるまま課長の隣の席まで行くと、

「座って」
「はい」

少し間を開けて腰を下ろそうとした瞬間、
えっ。
急に腕を引かれて倒れ、私は課長に寄りかかった。

「徹っ」
私が思わず名前で呼んでしまったのと、
「お前っ」
立ち上がった専務が怒鳴るのとが同時だった。


「いい加減にしろ。出て行け」
課長の元から私を引き離し、睨み付けながら言う専務。

一方課長の方は
「これが原因だろ?」
「はあ?」

「お前のウイークポイント」
「・・・」
専務は答えなかった。

「これ以上業務に支障が出るようなら、青井さんの異動も考える」
「そんなことは」
させないと言いかけた専務に、
「残念ながら、彼女の直属の上司は俺だ。それでも不満なら、社長を使って辞令を出すが?」
どうやら課長の方が一枚上手らしい。

「分かった、以後気をつける」
専務の方が引くしかなかった。

「青井さんは後で僕の部屋に来てくれる?」
「はい」

「何の用だよ」
不満そうな専務。

「専務には関係ありません」
部下の顔に戻った課長は、それだけ言うと部屋を出て行った。
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