氷の美女と冷血王子
「なんなんだ一体」
思わず口をついて出た。

随分な修羅場だったなあ。

「昔から、良くも悪くも目立つからなあ」
と、徹の呟き。

確かに、そうなんだろうが・・・

「お客さん、すみません」
ママが謝り、頼みもしないのに飲み物をかえてくれた。

彼女は一旦店の奥に消えた後、10分ほどで着替えて出てきた。
きっと顔を洗ったんだろう、先ほどよりもさらに薄いメイクになり、髪も一つに結ばれている。

「すみません、お騒がせしました」
テーブルとカウンター席を周り頭を下げていく彼女。

「初めて来ていただいたのに、ごめんなさい」
俺たちの席まで来てにニコリ。

うーん、営業スマイルとは分かっていてもこんな風に微笑まれると悪い気分じゃない。

「俺たちは別に」
驚きはしたが、気にはしていない。
夜の町なんてそんなものだし。

アッ。
小さな呟きが彼女の口から漏れた。
視線は徹に向いているから、きっと徹のことを思い出したんだな。
しかし、
「どうぞごゆっくり」
彼女はそれ以上何も言わなかった。

連れもいてスーツ姿の徹に話しかけない方が良いと思ったらしい。
まあ、妥当な気遣いだ。

「声かけなくて良いのかよ」
徹の方に聞いてみた。
「ああ、ただの顔見知りだから」
「ふーん」
じゃあ何しに来たんだよと言いたくもなったが、やめておいた。

徹はただ俺とこの店に来たかった。
それでいい。
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