氷の美女と冷血王子
そんなに長い時間ではなかったのだと思う。

俺も彼女動くことができずにいた。

俺だって、恋愛経験がないわけではない。
付き合った彼女も、愛し合った女もいた。
でも、こんなに衝動的に抱きしめたことはなかったように思う。
何がそうさせるのかは、俺にもわからない。
ただ、今は彼女を抱きしめていたいと本能的に感じた。


グルグルグル。

え、ええ?
温もりに包まれながらくっついていた体を離して、顔を見合わせる。

「今、おなかが鳴った?」

「・・・」
みるみるうちに真っ赤になっていく彼女の顔。

「おなか空いてる、よな」
もう8時だし。

「何か食べに行こうか?」
「いいえ」
やっぱり素直に『はい』とは言わない。

彼女にしてみれば、見られたくない姿を見られてしまったって意識があるんだろう。
さっきからずっと下を向いている。

「そんなに嫌?」
「そういう訳では・・・」

「じゃぁ」

「でも・・・」
彼女がチラッと服を見た。

あー、そうか。
この服ではどこにも行けない。

ふと、俺はいいこと思いついた。
こんな時に漬け込むようで申し訳ないが、俺だって今日は気分が良いわけじゃない。
副社長とは真っ向から対立してしまったし、仕事においても大きなリスクを背負わされてしまった。

俺だって気分が滅入っていた。
だからこそ、パーティーを抜け出して自宅に帰る気にもならず一旦会社に戻ってきてしまったんだ。
このままもう少し仕事をしようかとも考えたが、彼女を見ていて気が変わった。


「いいから行こう」
「でも・・・」

困った顔の彼女の手を引き、俺は歩き出した。


「あの・・・ 1人で帰れます」

「本当に大丈夫ですから・・・」

「専務・・・」


言い続ける彼女を無視して車に乗せた。
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