氷の美女と冷血王子
キャッ。
小さな悲鳴を上げた彼女を、俺は抱きしめた。

「離して」
俺の腕の中で抵抗してみせる細い体。

それでも、俺は力を緩める気はない。
彼女の抱える、苦しみも、悲しみも、すべて俺がもらってやる。そんな気持ちで包み込んだ。


「どうして私は、いつもこうなのかしら」
やっと抵抗の手を止めおとなしくなった彼女が、ポツリと囁いた。

「私、この年まで誰とも付き合ったことがないんです。それどころか、まともなデートさえしたことがなくて・・・笑いますよね」
「まあ、意外ではあるな」
きっと綺麗すぎて、高嶺の花にでも見えたんだろう。

「興味本位で誘ってくる人はいたんですよ。でもいざとなると、振られるんです。振られるって言うより、怖じ気づくんでしょうか」
「怖じ気づく?」
意味がわからず聞き返した。

「そう、私には色んな噂がありますから。超お金持ちの本命彼氏がいるとか、どこかの社長と不倫をしているとか、何人もの男の人と同時に付き合っているとか、悪い噂はつきません。私って魔性の女なんだそうです」

フフフ。
と、笑ってみせる彼女。

「もういい」
俺はもう一度、抱きしめていた腕に力を込めた。

「無理して笑わなくてもいい。悲しいときには、泣けばいいんだよ」
これ以上頑張る必要はない。

ウッ、ウウゥ。
俺の腕の中で彼女の肩が震えだした。

背中をトントンと叩き、俺は彼女を抱き続けた。
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