氷の美女と冷血王子
「商品は全滅ですか?」
「ええ」
電話の向こうの声に力がない。

「次の便は?」
「予定で行けば1週間後に出荷の予定でしたが、2日か3日は早めてもらうよう交渉しています」
「そうですか、私からも連絡してみます。荷物は少しづつでもいいのでこちらに送るようにしてください」
「しかし、輸送コストが・・・」
「分かっています。ですが、山通の信頼を失って取引がなくなれば元も子もありませんから」
「はあ」
皆川さんは納得できない様子だ。

「山通への連絡はこちらでしますから、皆川さんは製造元への交渉と事故後処理をお願いします」
「はい」

「大丈夫です。あそこの会社は製造の期限にいつも余裕を持たせていますから、4日か下手をすれば5日は早く出せるはずです」
「本当ですか?」
「ええ、随分交渉をしてきたので間違いありません」

何のためにアメリカ支社に3年も行ってきたって言うんだ。
企業の癖だって把握している。

「わかりました。もう一度交渉します」
本当にうれしそうに電話を切った皆川さん。

アメリカ時代に一緒に仕事をしてきたからわかる。
一見温厚すぎて押しが弱そうに見えるが、実直で仕事のできるいい人だ。きっとなんとかしてくれる。彼に任せれば大丈夫。
とりあえず俺は、営業部長と山通の対応を考えるか。
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