『彼の匂いを消す方法』:検索


「ここ数か月忙しかったのは、父が倒れて跡を継ごうか、継がないなら家をどうするかで、重たい話だったから君に話すのを躊躇っていた」
「……」
「でもどんなに疲れていても君の顔を一目見たら、きっと疲れなんてぶっ飛んでたよ」

 めちゃくちゃ会いたかった。

 辛そうに言われて、どうしていいか迷った。

 両手で握ったグラスは、ちょうどあの日、彼の手を両手で握った時みたい。
 ただ一つ違うのは、彼の手は暖かくて湿っていて、このグラスは氷がたくさん入っているので冷たいってこと。

「冷蔵庫に君が作ってくれた食事が入っているのを見て、胸が締め付けられた。このままじゃ駄目だって。君は弱音を吐かないし沢山我慢してくれる人だから」

 握っていたアップルジュースを奪うと、彼は私にブルベットの小さな箱を手渡してきた。

「サイズは後日でも調整してくれるって。デザインも君の好きなように」
「……自称イケメン御曹司のくせに」

「寂しい思いばかりごめん。沢山我慢させた」
 その箱を握らない私を見て、彼の手が重なった。
 一緒に開いた箱の中には、小さな輝きの中に溢れるほどの幸せが光っている。

 信じられない。

 私だけが好きだって思ってた。こんなに避けられて、もう私に気持ちがないと思っていた。

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