『彼の匂いを消す方法』:検索
「俺はお母さんが欲しいわけじゃないよ。でも忙しくて君に我慢ばかりさせたのは本当に反省する。ごめん。父の会社を継ぐことにしたから、今の会社を辞める。しばらく忙しいかもしれないから、だから」
一緒に住もう。
優しい声。温かい指のぬくもり。箱の中で光っている幸せ。
現実なんてこんなものだと、私は彼の匂いすらも忘れようとしていたのに。
「一緒に住もう、じゃ曖昧過ぎか」
小さく謝ったのち、喉を整えるように鳴らす。
「結婚してくれませんか」
震えて声が上手く出ない。
涙も溢れてしまった。
夢みたい。そして勘違いして暴走していた自分が恥ずかしくて、どうしていいか分からない。
「君の旦那になるには、どうしたらいい?」
とうとう彼の方から私の顔を覗き込んできた。
真っすぐ私を見る目。優しくて穏やかで、一緒にいると安心できる目。
指先も、優しい目も、匂いも全て好きだった。
色々と勝手に誤解したこと謝りたいのに上手く言葉が出てこい。
だから代わりに真っ暗になっていた携帯の画面を触って彼に見せた。