死んでもあなたに愛されたい
ここは、しみったれたとある小さな工場。
印刷業を営んでいる。
その社長が、アイツ。さっきの暴力男。
で、一応、俺の父役。
「はあ……だっる」
工場の一角、社長しか入れない部屋で、俺は黙々とアイツの仕事をこなしていく。
イヤだけど。
超イヤなんだけど。
やるしかないんだ。
俺がやらかせば、また殴られる。
やらかさなくても、殴られる。
ちょうど服で隠れるところを、ねちねちと。
そういうヤツなんだ。
ひでえよな。理不尽すぎる。
ふつうグレるぜ?
こんなんじゃ窓ガラスも割りたくなるだろ?
「チッ。アイツ、自分でミスしてんじゃねぇか。くそったれ」
今ごろ、当の本人は、工場の真向かいにある立派な一軒家で、のんきに家族団らんな食事をしてるんだろう。
父、母、弟。
3人で仲良く食べて、俺の分は冷えきった余り物。これもいつものことだ。
ウチに、俺の人権はない。
母役いわく。
そもそも俺はウチの子ではないらしい。
戸籍上、母役の姉にあたるヒトの子で。
世界中ほっつき回ってる姉と、どこぞのオトコから、ぽんと産まれた俺を、母役によろしくされたんだと。
どこからどこまでが事実なのか。
兵吾朗って名前さえ、本物かわからなくなる。
意味わかんねえよほんと。
俺って何なんだ一体。
得体の知れない甥っ子もどきを、家族とされるヒトたちは、恐れ、恨み、きらってる。
そういうワケで、そろいもそろって、俺を迫害しては嘲笑ってるのだ。
何ひとつ納得できないが、そういうもんだと割り切るしかない。
俺だってアイツらのこと家族だと思ったことは一度もないし、それに、あきらめは早いほうなんだ。
逆らわない。
怒らない。
泣かない。
暴れない。
求めない。
それが一番マシに生きられる方法。
愛も、期待も、やさしさも、とうの昔に捨ててしまった。
残念ながら、これが俺の世界だ。