策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
゛それにしても、策士な夫の用意周到さが半端ない゛

一緒に暮らしはじめてから陽生の有能さに触れる機会も多かったが、このような異質な周到さを目にする機会は格段に減っていたため油断していた。

「ごめんなさい、なんか色々巻き込んでしまって・・・」

と水流助産師に謝罪する、若干引き気味な日葵だったが、

「何言ってるの。一週間前は゛なんて心配性なご主人だろう゛って私も思っていたけど。実際にこうして自宅分娩になったわけでしょ?今回のことで私も、色々なシチュエーションで脳内シミュレーションしていくことは大事なんだって改めて実感させられたわ。お産は一人一人違うからね、結果オーライなのよ」

と水流助産師は答えながら、てきぱきと日葵の乳房と乳首をマッサージしてから初乳の分泌を確認してくれた。

そのあと乳首を消毒綿で拭いてから、美暖の口を日葵の乳首に持っていき授乳の体勢をとらせる。

教えたわけでもないのに美暖がそれをくわえて規則的に吸い上げる。

本能という生命力の素晴しさに、日葵は感動を覚えていた。

「日葵を一人にして出かけるからには俺にもそれなりの責任がある。最悪のシチュエーションが墜落分娩だったからな。万が一の時のために、葛城が今日はフリーで、電話相談可能なところまでは確認していたんだが、凧糸までは頭になかった。盲点だった」

凧糸にこだわる陽生は何なのだろう。

いや、そんなことよりも

゛この時代、こんなにも゛凧糸゛というワードが話題にのぼることがあっただろうか・・・。しかも活躍さえしなかったのに゛

と、日葵は脳内で一人ツッコミを繰り返しつつ、ぶつぶつと一人ごちる陽生を見た。

「その上、肝心なときに県境でスマホの電波障害がでやがった。・・・くそ!あの通信会社、契約解除する前にクレームをいれてやる」

陽生は大事な局面で、勇気の緊急連絡電話が入らなかったことをかなり根に持っているらしい。

契約会社を潰す勢いだ。

゛心の底からやめてほしい゛

と日葵は思った。
< 29 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop