だから、言えない


「おつかれっす」

その時、腑抜けた声で
そう言いながら
あたしの後ろを通ったのは
佐山さんだった。

……いいところに来たじゃん。

「佐山さん、
見てくださいよ、あれ」

あたしは佐山さんの腕を掴んで引き寄せると、村薗さんたちの方を顎で指した。

「……」
「ねぇ、佐山さんは、
あの二人がどんな関係か
知ってますか?」
「さぁな」
「でも、佐山さんと村薗さんって
仲いいんですよねぇ?
何も知らないわけないですよねぇ?」
「……離せよ」

佐山さんが、あたしが掴んでいる腕に
視線を落とした。

おとなしく手を離すと、
佐山さんは一歩あたしから離れて、
視線を村薗さんたちに戻した。

「竹本が村薗先輩っていってんだし、
高校の先輩後輩関係だろ?」



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