だから、言えない


「うん、皆そう呼ぶよ。
私は優くんって呼んでいい?」
「いいよ」
「ねぇ、優くん。
私もそれやりたい!
トレンペット?」
「トランペット」
「うん、トランペット!
やりたい!」

それからしばらくして、
ことちゃんは、
俺が所属する
町の小学生マーチングバンドに入ってきた。

俺と同じトランペットを
毎週一生懸命に練習している姿は
とてもかわいくて。

いつも俺にくっついては、
トランペットを吹いてくれと
せがむことちゃんを、
そのときは妹のように思ってた。

俺が小学生のソロコンテストに出るときは、
決まって応援にやって来て、
なけなしのお金で
俺の演奏のCDを買っていった。

さすがに全国大会に出たときは、
遠くて来れなかったみたいだけど、
俺のCDを買ってきて欲しいと、
お金を渡してきたこともあった。


俺が小学校を卒業するとき、
マーチングバンドも
卒業しなきゃいけなかった。

最後の練習のとき、
ことちゃんが泣いて俺から離れなくて、
困りながらも、なだめたのを
よく覚えてる。

「ねぇ、ことちゃん。
何がそんなに悲しいの?」


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