じゃんけんするだけ


「優希!」

あー、また来た。

身構えて待っていると、後ろから「どーん!」と効果音がつきそうなレベルでぶつかってくる彼の名前は蒼汰。

「ぐぇっ」

「何今の声」

「お前のせいだよ」

「ん〜っ、優希っ、好きっ!!」

そしてぎゅうっと抱きしめられる。

「ちょっ、死ぬ死ぬっ!!分かったから!!」

後ろから巻きついてくる彼の腕をべしべしと叩いて、なんとか引き剥がす。

甘えられるより甘える方が好きだそうで、実際これは日常茶飯事。

「じゃんけんしよ!」

「じゃ、じゃんけん?別にいいけど」

「負けたら僕にぎゅーってしてきて」

「うん」




「ん?ちょっとまて」

「じゃーんけーん!」

「ちょちょちょまてまてまて」

勝手に進めようとした蒼汰を止める。

蒼汰は分かりやすくぷくぅっと頬を膨らました。

「負けたら、なに?」

「僕にぎゅーする!」

「は?」

「だめ…?」

上目遣いでうるっと瞳を濡らす彼に、私の中の何かがぐはっとやられた。

なんなんだこの可愛い生き物っ…!

「わ、分かったから!その目やめて!」

見てるこっちが顔赤くなるわほんとに…。

ぱぁっと目を輝かせる蒼汰に、耳と尻尾が見える。

わぁ、犬だぁ…。

「じゃーんけーんぽんっ!(グー)」

「ぽ、ぽんっ!(チョキ)」

あ、詰んだ。

「あ、優希の負け!じゃあはいっ!」

なんて言って両手を大きく広げてくる蒼汰。

その大きな胸に飛び込みたいのは言わなくても分かるだろうけど、いやあのイケメン見て?

あのイケメンに飛び込んでいいのか?

いやかれこれ付き合って1年ちょっとだけどさ。

未だに抵抗あるんだよあのイケメン。

そしてときたま可愛い。

なんて罪深い男なんだっ…!

「優希?」

脳内で悶えている私に向かって、こてんと首を傾げてくる。

あー、シンプルに可愛すぎて昇天しそう。

不思議そうな顔をしている蒼汰に恐る恐る近づくと、ぐいっと身体が引き寄せられた。

「捕まえたっ」

なんて可愛い言葉を漏らすもんだから、そりゃもう優希ちゃんはずっきゅんですよ。

ずっきゅん。

「なんで優希はそんなに可愛いの?」

「こっちのセリフだバカ」

「ツンデレだな〜」

恥ずかしさでゆでだこになりそうなのを、蒼汰のTシャツを握る力に変えていく。

きゅっと服を掴んだのが分かったのか、彼の手は私の頭に回された。

「可愛いね〜」

なんて言いながら。



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