不本意ながら、極上社長に娶られることになりました

「悪いな、仕事後に付き合わせて」

「いえ。あの、でも、こんな普通の格好で私……」


　そう言うと、千晶さんは「心配いらない」と慣れた仕草で私に寄り添う。


「どこに出ても堂々としてられるように、今からドレスアップしてもらう」

「ド、ドレスアップですか？」


　背中を押され、向かった先はホテルの衣装サロン。

　入り口を入ると受付で年配の女性スタッフが「社長、お待ちしておりました」と、かしこまって出迎えた。


「彼女の好みを聞いて、似合うものを頼む」

「かしこまりました」


　話は通っているらしく、女性スタッフは「では奥様、どうぞこちらへ」と私を奥へと案内していく。

〝奥様〟と呼ばれることには未だ慣れないなと思いながらあとについていくと、ドレスや着物が数多く用意された部屋へと通された。

　ウエディングドレスからカクテルドレス、色とりどりの衣装に目移りしてしまう。


「どうぞお好きなものをお選びください。ドレスがよろしいですか？　お着物でもご用意できますので」

「はい、ありがとうございます」


　着物、か……。

　パーティーと言われていたから、落ち着いたカクテルドレスあたりがいいかと思っていたけれど、着物も有りなんじゃないかと思い始める。

　老舗和菓子店『みかど堂』の代表取締役である千晶さんの婚約者としてパーティーに立ち会うことを考えると、和装が適切であることは間違いない。


「あの……着物を、見せていただきたいのですが」


　スタッフの女性にそう申し出ると、私にも丁寧に「かしこまりました、こちらです」と数多くある着物を見せてくれた。