春の闇に連れ去らレ

渋々立ち上がり、部屋を出る。

玄関近くのウォークインクローゼットに入り、一番出口に近い場所に吊るされた上着を取った。棚の上の車の鍵を掴むと、後ろに人が来ているのに漸く気付いた。

驚いて振り向けば、麻でなく緤がいた。

「どうしました?」
「俺も行く」
「え? 刺し身ですよね、買ってきますよ」

緤が好きなのは鰤だ。無かったら捌いてもらうしかない。

「他にもいるもんあんだよ」

車の鍵をひったくり、先に玄関を出ていく。

まあいいか、と思いながらその背中を追った。

緤が運転するのはかなり上機嫌な時だけだ。

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